2019/06/10

ピアノの音色(その14)

ピアノの音色もようやく終わりが近づいて来ました
予定では今回と次回の2回で終わります

ようやく、夢の中の教会を探し出したレナでしたが
ちゃんと十字架を返す事が出来たのか?

それではどうぞ!


エリザに案内されて到着した教会は
これまでローマ中を探して来たが
どこにでもありそうな素朴な教会だった

しかし、私にはなんとなく
これまで見た教会とは違う気がした
教会の中に入ると
不思議な感じが私を包み込んだ
なぜか懐かしい感じ
遠くの方であの壊れたピアノの音色が聞こえた気がした
間違いない!
この教会が私が探していた教会だ!

私が教会の中を懐かしく感じ
夢の中や想い出の中の教会と照らし合わせていると
エリザが教会に居たシスターと話をしていた

「Sorella Agata!
Questa e Rena Japonese
Cui parlavo prima.」

「Piacere Rena」

「レナ、こちらがシスターアガタよ
壊れたピアノがあった事を教えてくれたのも
シスターアガタだったの」

シスターアガタは
夢の中で現れた女性と同じくらいの年齢だった

「ピアチェーレ(はじめまして)シスターアガタ
私は、日本から来たレナと言います
実は、十字架を返しにここまで来たんです」

そう、十字架を返しにここに来たのだが
このシスターアガタは夢の中で出て来るシスターとは違う
年齢は夢の中の女性と同じくらい
当時は十年ほど前だし
顔や雰囲気が違う感じがした
間違いなくシスターアガタは
想い出の中のシスターとは違っていた

私が、変な顔をしたのか
エリザがすぐに私に話しかけて来た

「レナ!
シスターアガタはあなたが探している方ではないわ
あなたが探しているシスターは
シスターマリアという方よ」

「そのシスターマリアさんは今何処にいらっしゃるの?」

「シスターマリアは
身体を壊して修道院にいらっしゃるの
この教会の裏に修道院があるから行ってみましょう
シスターアガタから許可は貰ったから」

裏の修道院に行く途中で
エリザが昔の話をしてくれた

「そういえば、レナ
私が日本語を話せる理由を教えてなかったわね」

「えっ?
学校に行って勉強したんじゃなかったの?」

「そうよ、本格的に勉強したのは学校に行ってから
でも、日本語に興味を持ったのは
シスターマリアに教えてもらったからなのよ」

「そうなの?」

「私もすっかり忘れていたけど
シスターマリアが私と同じくらいの年齢の日本の女の子に出会った
って言って
私も興味を持って簡単な日本語を教えてもらったりしていたの
きっと、その女の子がレナだったのね
私はレナのおかげで日本語が話せる様になったのよ」

そうだったのか
不思議な事もあるんだなぁ~
って思いながら
これは神様の思し召しなのかなぁ~
とも考える自分がいた

案内された修道院は小さな建物で
中に入ると小さな部屋が幾つか並んでいた
その並んだ一番奥の部屋がシスターマリアの部屋らしい

コンコン!
エリザがドアをノックして話しかけた

「Sorella Maria
Ti ho portato con noi.」
(シスターマリアお客様をお連れしました)

「Perfavore,entra」
(どうぞ、中に入って来てください)

本当にこの中にあの時の女性がいるのか?
私はすぐに中に入るをためらったが
勇気を出して入る事にした

ガチャ!
ドアを開けると
ベットだけで部屋の中が一杯になるくらい小さな部屋だった
そのベットの上で一人の女性が寝ていた

その女性の顔を見るなり
あの時の光景が鮮明に浮かび上がってきた

ピン、ポロン、ピン
ピン、ピン、ポロン
あの音程の外れたピアノの音色
そして、女性の優しい声
ああっ、この方が私が探していた女性だ

私がシスターマリアに対して
最初に話した言葉は
”ごめんなさい”だった

「ごめんなさい、
覚えてらっしゃらないかもしれませんが
あの時はご迷惑をおかけしてすいませんでした」

「迷惑だなんて思っていませんよ
それに、あなたが迷子になっていた時の事は
今でもちゃんと覚えてますよ
あんなに小さかった女の子が
こうして遠い所まで会いに来てくれるなんて嬉しい事です」

あの時のままの声でシスターマリアが答えてくれた

「実は、ここまで来たのには理由があって
謝らないといけない事があって来たんです」

「謝らないといけない事?
いったい何かしら?」

「これを返すのが遅くなってごめんなさい」

私は、大事に持っていた
十字架のペンダントをシスターマリアに渡した

「まぁ、これは私の十字架ですね
わざわざ、これを届けに来てくれたのですか?
また、この十字架を眺める日が来るなんて
この十字架は私の母親の形見なんです」

「そんな大切なものだったなんて
あの時、幼かったといえ
ほんとうにごめんなさい」

「いいえ、いいのよ
あなたが持って行ってしまったとしても
それが運命だったの
確かに、その時は私も悲しい思いをしましたが
でも、そのおかげでこうやってまた会いに来てくれるなんて
これも運命なんでしょうね
ちょっと長くなるかもしれないけど
私の話を聞いてくれるかしら?」

「はい、もちろん」

「私が神に身をささげるきっかけになったのは
両親を亡くしたからなの
両親が亡くなったのは
あの時のあなたくらいの年齢だったわ
親に関しての思い出とか品物とかほとんどなかったんだけど
この十字架だけはずっと大切に持っていたの
両親の居ない私は孤児院に預けられて
その後、十字架を持っていた事もあって
宗教に関して考える事が多くなって
この教会に入る事を決めたの
教会に入って最初に私の面倒を見てくださったのが
日本から来た神父様だったのよ
その時に、神の教えはもちろんだけど
日本語を教えてもらったりしたの
だから、迷子になった日本人の女の子と話も出来たのよ
そして、私が日本語を教えたエリザと一緒に会いに来てくれた
これを運命と言わずになんと言ったら良いのでしょうね
ほんとうに会いに来てくれてありがとう
レナ!」

「えっ!
名前まで覚えてくれていたなんて
私なんて、最近の夢を見るまで十字架どころか
イタリアで迷子になっていた事も忘れていたのに」

「Renaってイタリア語では"活力"って意味があるのよ
この所、身体がすぐれなくて少し寝込む事が多かったんだけど
レナが来てくれた事で元気をもらったわ
あの時と立場が逆になった気がするわね」

「そういえば!
シスターマリア
あの時のピアノはどうなったんですか?
あの、変な音がするピアノは?
エリザの話だと
教会にあるピアノは新しくて壊れてもないって事みたいですけど」

「懐かしいわね
そうだったわね、調律が出来なくて
所々の音が変な音になっていたわね
あの後、他の音も変になってしまって
賛美歌の伴奏とかが出来ないって事で
新しいピアノを購入したのよ
でも、珍しいピアノって事で
今でも教会の倉庫においてあるはずだけど
そうそう!
あのピアノは日本製なのよ
日本語を教えてくれた神父様が
日本から取り寄せてくださったんだけど
日本製って事で
調律が出来る人間がイタリアに居なくて
変な音がしててもしばらく使い続けたのよね」

あのピアノにはそんな訳があったのか
曲はイタリアの童謡だったが
日本のピアノが私を慰めてくれたんだ

もっとシスターマリアと話がしたかったが
日本に帰る時間が迫っていた
もう一日くらい滞在を伸ばそうかとも考えたが
エリザのパパのアンドレアが教会まで迎えに来てくれて
急がないと飛行機に乗り遅れるぞ!
とせかされて
一日帰りを遅らせたいと言う暇もなく
空港まで連れて行ってもらった

それでも、十字架を返す事は出来たし
シスターも身体を壊しているって割りには
沢山話も出来たし元気そうだったので
また、必ず会いに来ると約束をして日本へ戻った

つづく


2 件のコメント:

yume さんのコメント...

レナはシスターに会え、
直接十字架を届ける夢も叶いましたねヽ(・∀・)

シスターマリア、エリザ、レナの三人は
意外な絆で 結ばれていたようですね♪
これで…安心して日本へ帰国ですね\(^o^)/

Gabriel. さんのコメント...

yumeさん
なんとか、十字架を返す事が出来て良かったです
話はようやく終わりです
長い間読んでくださって
さらに、コメントまで頂いてありがとうございます
次回はどうなるか分かりませんが
何か思いついたら書きたいと思います(笑)